この赤ちゃんが歩く練習をするのをみてみましょう。よちよち歩きの背後にある動きの原理を説明出来るでしょうか?
この赤ちゃんは右脚から左脚、左脚から右脚へと重心を移動しているというのが良い答えでしょう。これは歩くということの最初の、最も基本的な要素だと考えることができます。片方の脚に重心がのっている時だけ、もう一方の脚を自由に前に動かすことができるのです。
これからこの赤ちゃんは何度も繰り返し後ろから前へ体重移動することによって、それがほとんど無意識にできるようになり、いわば筋肉に記憶として刻まれるまで歩き方を洗練していくことでしょう。
私たちは皆こうやって歩くこと(そして、その他の小さいけれど重要な様々な動き)を学んでいきます。しかし、このような学び方(心理学者は「本能的な」学びと呼びます)をしても、歩くということのプロセスを意識的に理解できるようになるわけではありません。私たちは歩き始める時に「OK、まずこちらの脚の重心を横に移動して、そして自由になった脚を前に出して」とは考えません。ただ歩き始めるのです。多くの人にとっては生涯この直感的なやり方でうまくいくのです。
しかし私たちパーキンソン病を持つものはこの自動的な動きが充分に出来なくなってしまいます。ドーパミンが不足することにより大脳基底核と呼ばれる一連の神経細胞がうまく働かなくなるため、この自動的な動きがうまくいかなくなるのです。大脳基底核は通常、習慣的な動きを制御する時に中心的な役割を果たしています。しかしパーキンソン病がこの領域の神経の働きを妨げてしまうとき、考えずに動くという私たちが元々持っているメカニズムが失われてしまうのです。これまでに何千回とやってきた動きが、私たちを困惑させる難しいものになってしまうのです。
しかし、この様な機能はもうないのだと諦めなければいけないわけではありません。もう私達は無意識のプロセスに頼れないということなのです。その代りにある動きをする時、その動きをどのようにしているかということをはっきりと、意識的に理解をする必要があります。鍵になる動きの要素を理解して、それを意識しながら意思を持って動かなければいけないのです。
これが出来るとき私たちは基底核をバイパスして脳のより健康な部分、大脳皮質を用いて身体を動かすことが出来るのです。
運動の原理をすくみ足に対応するために適応してみる
具体的な例を考えるためにパーキンソン病の方によくみられるすくみ足(動き始めようとする時に足がそこに張り付いてしまうという問題)のことを考えてみましょう。これは私達のコアコンセプトがどのようにすくみ足という問題を解決出来るのかということを示す一例です。
ほとんどの人はすくみ足を克服しようとして、もっともらしく合理的に見えることをします。歩くというのは前へ移動することなので、大抵の人はまず体重を前に移動しようとします。そして足を前に出そうと更に頑張ってしまうのです。このように考えると歩行開始の背後にある動きの原理を理解出来なくなってしまいます。先程のビデオの赤ちゃんが教えてくれた様に、歩く時にはまず重心を横に移動して、片方の脚で立たないといけません。この体重移動なしで両方の脚に50%ずつ体重がかかった状態では、あなたの脚はすくんだままです。すくみを解消しようとするならば、動き出す前に例えば10%−90%程度の体重配分にしておかなければなりません。それでは下のビデオを見て、この体重移動の様子をみて下さい。
最初は複雑で面倒な動きに見えるかもしれません。しかし練習すれば、もっと素早く簡単に動けるようになるのです。
すくみ足が起きやすい状況でこの問題をうまく処理する(または避ける)ためには重心移動の重要性を理解しておく必要があります。例えば、通りを渡ろうとして待っているビデオの中の私を見てください。すくみ足はこのようにもっと早く動かなくてはというプレッシャーがあって、時間に追われるような状況でよく起こります。しかし私は次のようにしてすくみを避けることができます。
信号が変わる前に重心を横にずらせるように心の準備をしておきましょう。
青信号になったら重心を右から左へ移動して(氷の上を歩くペンギンのように)に歩きましょう。
一度動き始めるとあとはずっと楽になります。すくみのある人にとってはいつも一歩目を踏み出すのが最も難しいのは良く知られていることです。皆が皆、ペンギン歩きをする必要はありません。しかし精神的にはそれに備えておく必要があり、その瞬間が来たなら実行しなくてはいけません。
完璧とはいかないけれど、役に立つもの
動きの原理を理解することに依存している意識的な動きは、私達がパーキンソン病になる前に持っていた自動運動ほどはスムースでも簡単でもありません。私達が生涯かけて磨いてきた技術を全て置き換えることができるほど、この意識下の運動は優れているわけではありません。しかし運動の過程の基本的な部分に気がつくことにより大部分の運動を取り戻すことが出来るのです。
そしてあなたがこの新しく獲得した運動の理解を繰り返して利用すればするほど、あなたの動きの助けになり、そのガイドラインにアクセスし、利用するのはますます簡単になります。ちょうど、このよちよち歩きの赤ん坊がうまく歩けるようになるように。