Dr. David Blatt:バランスドクター

PDアウトライアーズ(桁外れのパーキンソン病患者さん達)は傑出したパーキンソン病患者さん。が病気と上手く付き合っていく方法を語り、皆さんと共有するためのインタビュー・シリーズです。

(川合寛道:翻訳、医学監修、Ms. Mariko Shawback: 校正、共同翻訳)

 

デイビッド・ブラットを紹介するのにはまずこのビデオを見てもらうのが良いでしょう。

これが彼です。パーキンソン病と診断されてから約20年、61歳でバスケットボールの上でバランスをとっています。もしあなたが彼のユーチューブチャネルを見てみれば、更にいくつもの印象的なビデオを見つけることができるでしょう。ボクシング、スキー、ランニング、ジャグリングなど、その全てがパーキンソン病患者さんには不可能と思われているレベルのものです。他のパーキンソン病患者さんにいかに彼らの限界を超えて身体的な挑戦をしていくか教え始めたことで、デイビッドはこのようなことまで出来るようになったのです。

しかしデイビッドは最初からこのように活動的だったわけではありません。診断されてから最初の数年間は体力の低下の進行を感じていました。8年後には椅子から立ち上がることが困難になったのです。そこで何が起こったのでしょう?彼はどのようにしてこの状況から立ち直ったのでしょうか?他のパーキンソン病患者さんがQOL(生活の質)を改善するために、どのようにすれば彼の方法を取り入れることが出来るか、彼の回復の秘密は何か、をじっくり彼に伺いました。我々の対話はレボドパ・カルビドパ服用の重要性、神経系を刺激するためにどのように運動するべきか、そしてどのようにしてエゴを捨て去るべきかといった話題を含んでいます。

デイビッドは、努力してさまざまなことを成し遂げてきて彼のQOLも改善し、全てのパーキンソン病の症状について克服した様に見えるのにも関わらず、今もこの病から逃れたわけではないと言います*。診断されてから毎日が挑戦だったよとデイビッドは言い、彼がいまだにうつの症状に苦しんでいることも付け加えました。そして彼は診断された時に若く健康で、身体的に活発だったことも指摘しました。「診断された時にご高齢の方には難しいのではないかな」。

私のインタビューが示しているように、彼は思慮深く、彼が達成したことに対して控えめに議論し、彼が成し遂げたことを正確に述べていますが、彼が成し遂げた事が何を示唆しているかに関しては不当な主張をしたりはしていません。彼の努力はパーキンソン病の患者さんに何が出来るかという他の人が抱く期待がいかに限られたものなのかを示す一例だと思います。彼が成し遂げたことはパーキンソン病が従来信じられてきたような病気とは違うことを示している, と彼がいう時、私は心の底からそれに同意するのです。

 

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Pamela Quinn(以下Pam):単刀直入に伺います。あなたのバランスはいつもそんなに良いのですか?

David Blatt(以下David):そうですね、いつもそれなりにバランスがとれていたと言うべきでしょうか。診断される前にはよくハイキングをしていましたし、若い頃にはスキーも好きでした。これらが私がバランス感覚を育てる上で役に立っているかもしれません。しかし私は生まれながらのアスリートというわけではありません。正直に言うと私は背も小さくて動きもゆっくりだったから、医学が私のキャリアとしては適当だったんです。(笑)

 Pam:でもあなたはいつでもバスケットボールの上で腕立て伏せをすることができた?

David:いや、私がそれを出来るようになったのは2013年、診断されてから16年経ってからでした。

Pam:16年も経ってからですか?

David:はい

そしてそれからの十数年間、私はパーキンソン病であるにもかかわらず、いろいろなことを達成してきました。ボクシングのバッグを叩いたり、スキー競技をしたり、ボス・ボールの上でジャグリングをしたりといったことを学びました。(ボス・ボールとはバランストレーニング用の器具で、丁度ビーチボールを半分に切って平らな方を下にしたような形をしています。)

もし20年前にあなたが私にこれらのことの内一つでも出来るかと聞いたら、あなたは頭がおかしいと思ったでしょう。

私の症状がやや軽症だったことも私には幸いでした。私が出来ることすべてをもっと重症の方が出来るとは思いません。私が他のパーキンソン患者さんを教え始めてから気が付いたのは、ある人達は私と同じ様に出来るが、他の人達はより限定された改善しか認めないということでした。しかし私の教えている人達は何らかの形で動きやQOLの改善を認めています。これは、私がパーキンソン病に打ち勝とうとしてとった行動の原則が、自らの機能を改善しようと思っている他のパーキンソン病患者さんにとっても必須であることを示していると思います。

Pam:その原則とは?

David:まず第一に、そして最も大事なことは適切な薬物療法を受けることです。

適切なレベルの薬物療法のサポートを受けることであなたの運動能力は高まります。

 私が達成したこれらのことは私がOn状態にある時にのみできることで、私がOff状態にある時には、実際私の状態は昨年より悪くなっていると思います。しかしここ10年ほどの間、十分な量の薬剤を内服する事によりOn状態のQOLを維持したり、時には改善させたりする事が出来ました。その事は良かったと思っています。我々は薬のOn状態が、良い状態の大部分を決定している事を忘れがちですが。

Pam:  あなたが服用されているお薬について少し聞かせて下さい。

David:色々な薬を服用していますが、私の生活を最も改善したのはレボドパ・カルビドパです。私はジスキネジアが起こるのを恐れて何年もこの薬を避けていたのです。後から考えれば私は当時受けることが出来たはずの大きな恩恵を先送りにしていたのです。私は椅子から立ち上がることが困難になる状態になるまで衰えてしまいました。立ち上がろうとした途中で、また後ろに沈んでしまうのです。私は何かしなければならないと思い、薬を飲むことに同意しました。それは2005年、診断されてから8年目のことでした。

変化は劇的でした。数日のうちに私の気分は持ち上がり、私の身体は生活に復帰し始めたのです。

Pam:私が初めてシネメットを服用した時にも同じ体験をしました。あなたと同じ理由で13年薬を飲むのを先送りにしていたのですが、何故もっと早く始めなかったのだろうと思いました。未だにそれを初めて服用したときのことを覚えています。昔の私と再会した様でした。魔法の様でした。

David: その通り。改善はすぐに起こりました。

48時間以内に立ち上がるのに困難は無くなったのです。

もう何日かすると近所の森をハイキング出来るようになりました。それからよくハイキングをするようになったのです。2年以内に5000フィートあるサウスシスター(オレゴンのカスケード山脈にある3つの高峰の内の一つ)の頂上まで登れるようになりました。登山の総行程は12マイルほどありました。

レボドパを開始してから数ヶ月たった時、私はスキーを再開することにしました。私の子供の一人が高校のレーシングチームに入っていて、それを手伝うことにしたんです。代わりにコーチが私がそれまで学んだことのない基本的なスキーレースの技術を教えてくれました。2005年から2012年にかけては、年に20-25日も滑ったものです。2012~2013年シーズンにマスターズのスキーレーシングチームで10日半練習していた時にピークは来ました。その春の後半に私はマスタークラスの滑降と大滑降に初めて出場しました。50人中最下位でしたが、楽しかったです。

このような状況の中でも、私はその内に壁にぶち当たるのではないかと予測していたのですが、驚くべき事に私の状態はより良くなっていました。そこで、ただ今までやっていたことを続ける事にしたのです。

しかし、これらの全てのことはレボドパを服用するという決断によるものでした。

もし今日もう一度やり直すことが出来るなら、もっと早くから服用を始めるでしょう。

Pam: 私もそうします。

David: 同時にーこれを読んでいる人のために言っておくとーパーキンソン病と診断されたからといって自動的にレボドパ・カルビドパを服用する必要もありません。もしあなたがある強度の運動を薬無しで行えるのなら、直ちに服用を開始する必要はないでしょう。

でも、もしそれが無理ならばあなたは脳神経内科医に薬を処方してもらうべきです。私は薬を恐れるあまり自分自身を重度の障害のある状態にしてしまった人達を沢山知っています。彼らは運動したいのですが出来ません。何故なら動けるようにしてくれるレボドパを服用していないからです。彼らの状態は悪くなっていくのを私は見てきました。

私は適切な量のレボドパを服用し定期的に運動する事によってジスキネジアの出現するリスクを下げることが出来ると信じています。

Pam: 勿論あなたの成功はレボドパ・カルビドパだけによるものではありません。私もその薬を15年間服用していますが、バスケットボールの上で腕立て伏せをすることは出来ません。

David:その通り。適切な量の薬を服用することは第1段階に過ぎないのです。薬物はあなたの機能を改善するための第2の段階へ進むためのサポートをしてくれるに過ぎないのです。運動があなたの脳と体を刺激するのです。

私と生徒達は我々が毎日している運動を3つのカテゴリーに分けることにより、我々の機能改善を果しています。

1. うまく出来る運動
2. うまく出来ない運動
3. 今までやったことのない、出来た試しのない運動

あなたがどの種類の運動を選ぶかはそれほど重要ではありません、どこまであなたの体と脳を限界に追い込むかが非常に大事なのです。もし体の機能を改善したければ、快適なゾーンを抜け出すべきです。

Pam: いつ身体のバランスを改善する事に重点を置こうと決めたのですか?

David: 私はいつも身体のバランスは重要だと考えていました。私が1997年にパーキンソン病と診断された時に、医師は二つの症状がQOLを著しく阻害する原因になると言いました。バランスを失う事、動作のスピードが遅くなる事です。

しかしながら私がバランスに集中するようになったのは、簡単なスキーランで軽い転倒をした2008年からです。その頃私は短期的には動きを早くしようとも考え始めました。

Pam: どのようにしてその二つを達成したのですか?

David: 私はバランスをよくするために、ボスボールを逆さまにして(ドームの方を地面に向けて)腕立てを始めました。それが簡単になったら、次に私はそれをひっくり返し平らな方が地面に向く様にしました。両方の腕の下に一つのメディスンボールがあるようにして腕立てが出来るようになったのです。訓練をするたびに私は少しずつそれを複雑にしていくようにしました。今、私は4つのメディスンボールの上でバランスをとり腕立て伏せが出来る様になりました。

動きを速くするために、私は常にランニングを続ける様にしています。私はジャグリングの技能も改善しようと決めました。私は診断される前に基本的なことをマスターしていたのですが、ここ数年はon、off の時に棍棒をジャグリングできるかどうか実験する様になりました。私がこれをマスターしたのは2013年の事です。

私のユーチューブチャネルで、私がこの二つを組み合わせているのが見られます。私はボスボールの上でバランスをとりながらジャグリングをしてみたのです。

でもこれらのことは簡単に出来たわけではありません。私は何度も失敗しては奮闘しなければならなかったのです。ここで私はあなたの身体の機能を改善するための重要な手がかりを得たのです。あなたはエゴを捨てなければいけません。

私が最初パーキンソン病と診断された時、運動している時に震えているところを見られるのが嫌でした。私はジムへ行くのをやめて、人目に付かない所で運動する様になりました。しかし今から考えればこれは間違いでした。私はより孤独となり、あまり頻繁に運動しなくなりました。状態は悪くなり、それは私にとって辛い時期でした。

他の人の目の前で失敗することができる様になって初めて私のスキルは上達する様になったのです。バスケットボールの上でバランスが取れる様になるまでに、何度したたかに顔を床に打ち付けた事か。しかし私のエゴを捨ててしまった時点で、他人が私のことをどう見ているかは気にならなくなりました。私は失敗したいのです。実際、バランスセッションが終わるまでの間に、何度か転落しなかった時、私は自分に十分な負荷をかけていなかったサインと捉える様になったのです。

わたしは今日何か学ぼうとする時にこの原則を貫いています。UCLAの有名なバスケットボールコーチのジョン・ウッドンは「君がミスをしないなら、何もしていないのさ」と言い表しています。(笑)

Pam:ご自分に負荷をかける時、どの様にして安全を確保するのでしょう?多くのパーキンソン患者さんは転倒しやすい状態ですし、運動する時に怪我をしてしまうのじゃないかと心配なのですが。

David:一つは大きな失敗ではなくて小さな失敗をすること、二つには理学療法士やトレーナーといっしょに運動すること。理学療法士やトレーナーはあなたにあった運動を選んでくれます。

もしくは他のパーキンソン病患者さん達のいる運動クラスに参加することです。

念のため、ボスボールはすでに例外的なバランスを持っている方にのみお勧めします。バランスを改善するためのより安全な運動があるので、ボスボールを使う前にまずはそういったものからマスターすべきです。

Pam: パーキンソン病患者さんと共にいる理学療法士や作業療法士に何かアドバイスはありますか?

David: パーキンソン病患者さんの機能をただ維持しようとするだけではなく彼らの機能を改善する様に励ましてあげて下さい。そしてまた療法士さんにお願いしたいのは、パーキンソン患者さんはここまでしか出来ないという限界を設けないでほしい、と言うことです。患者さんと理学療法士、作業療法士は疾患の受容と否定の健全なバランスを探さなければいけないのです。

 一方で、我々は注意深くあらねばなりません。私はある最近のレポートで理学療法士がパーキンソン患者さんを激しく追い込みすぎた例を読みました。一方でパーキンソン病患者さんが激しい運動をすることのメリットに関するエビデンスも増えつつあります。もし、あなた方のメニューがただ歩く事、エアロバイクを楽なペースでこぐ事、椅子に座りながら出来る運動をする事に限られるのなら、それは患者さんにとってチャレンジではありませんし、その効果はあったとしても最小限にとどまるものと思います。

私は7年間、クラスを主催していますが、そこでは患者さんの機能を改善させるため様々なアプローチをしています。これまでのところ、クラスの数を週2回から週4回へ増やすことが最も効果的な方法と思われます。

Pam:最後の質問です。もしもう一度パーキンソンと診断されたら、何か違うことをしますか?

David: 第一には私の人生が駄目になってしまったと思わない事です。私が昔診断された時より希望的になれる状況が揃っていますからね。私は、私自身が学んできたように、3つのステップの運動を開始するでしょうね。そして運動が可能になるように薬物を服用するでしょう。そしてかつて私がしたように家族から離れてしまわないようにします。それは家族にとってフェアなことではなかったし、私自身もそれにより傷ついただけでした。私がそのことを打ち明けてから我々は家族としてこの病気とより上手く付き合えるようになりました。彼らは信じられないサポートをしてくれます。

もしあなたに、私がパーキンソンと診断された時、20年後もスキーが出来るよと言われたとしても私は信じなかったでしょう。13年後にパーキンソン病患者さんのための運動教室を始めるといわれたとしても、やはり信じなかったでしょう。私の機能が改善したという事実、私達の教室への参加者も改善しているという事実は、伝統的にこの病気が考えられていたものとは違うということを示しているものと思われます。

明らかにいくつかの違う系統のパーキンソン病患者がいて、ある患者さん達は他の人より更に進歩することが出来ます。私は幸いにしてかなりのところまで進歩することが出来ましたが、この事実は自分の潜在能力を全て理解していないパーキンソン病患者がたくさんいることを意味していると思います。パーキンソン病はそう考えられていたように不可避的に進行性の病とは限らないことを示唆しているのではないかと思います。